東京地方裁判所 昭和39年(ワ)1123号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕………をあわせれば、本件改造工事は一階部分において従前の柱三本を撤去し旧五畳半、二畳間の各一室と台所(約一、五坪)のあつた部分をとり払い、これをコンクリート敷土間とし従前の店舗を約二倍に拡張するとともに、旧押入を撤去し、旧階段の位置を右押入のあつたところに移し、便所の位置をやや階段側に移動した外、店舗内部の柱、天井、内壁にはクロス張りをし、大台石にはモルタル上塗をほどこし、店舗の表側(巣鴨地蔵通りに面した側)の雨戸はシヤツターに取換え、裏側(都電通りに面した側)では従前の硝子戸を取り除き、ウインドガラスとガラスの開き戸し、表口と裏口とが通り抜けられるようにしたこと、二階部分においては六畳と四畳半の間取りを六畳、三畳と台所に変え六畳にあつた階段を三畳の方へ移し旧階段跡を押入れとしたこと、建物外廻り部分においては表通りから向つて左側面の荒壁を隠すためトタンで張り、表裏の各看板を以前より高くして改装したものであり、総じて建物の模様替により装飾が加えられ、美観を増し、従前の外観にくらべてその面目を一新しているけれども、建物の重要構造部分である土台、柱、桁等の入替、増強工事はなされず、建物全体の規模、床面積等にはなんらの変更もなされていないことが認められ、右認定をくつがえすべき証拠はない。
そこで右の如き改造工事が無断増改築等を禁止している本件特約に触れるかどうかにつき判断する。一般に建物所有のためにする土地の賃貸借にあつては賃借人としてはその期間内においては用法に定められたところに従う限り自由に地上に建物を築造し、またこれが増改築をなしうるのが原則であるが、建物の存続は借地権の存続期間や建物買取価格に関係があり、これが不当に人為的に延長されるときは賃借人の不利益に作用するおそれがありうるので、これを免がれるために賃借人に建物の無断増改築や変更工事を禁止する特約がなされるのであるが、それはあくまでその本来の趣旨からして旧来の建物にかえてあらたに建物を築造したり、新築にひとしい大改築をする等本来の命数を不当に延長し、あるいは価額の不当に増大することを防止するためにのみ許されるものというべく、従つてそこにおのずから一定の限界があるものであつて、建物の模様替はもちろん、建物の通常の用法においてその維持保存を図る程度の修理改造まで禁ずるものではないと解すべきである。本件特約もまた同様に解すべきものである。………をあわせれば、被告は当初から本件土地上の本件建物で洋品店を営んできたところ、この場所は巣鴨地蔵通りなる繁華な商店街の入口に位置し、附近は近時いちじるしく近代化された商店が並ぶようになつたのに、本件建物のみは昔のまま旧態依然としており、同じ通りの他店と比較して大いに見劣りがし、とうていこのままでは同業者と対等に競争してゆけないのが明らかとなり、又店自体としても売上げが減少の一途をたどる一方であつたので、被告は企業診断を受けその勧告に従つて洋品店としての存続上止むをえず本件改造工事をしたものであるが、その外観上の面目一新にくらべ建物としての規模や建坪の変更はなく、建物の土台、柱その他根本の構造を変えるにいたらず、本件工事に要した費用も総額約一三〇万円のうち大半は飾棚、ケース等に費され、建物自体の改造に要した分は三〇余万円にすぎないものであつて、本件建物が右改造工事によつて一部には耐用年数が若干延びる点がある反面、地震、強風等の横揺れにはむしろ弱くなつている点も指摘しえられ、全体としての建物の強度や耐用年数が増したとは必ずしもいえず、その価額の増加もいちじるしいものではないことが認められるのであつて、これを要するに右の程度の本件改造工事は被告が本件土地上に本件建物を店舗として維持することによつて使用するために通常許される相当の範囲内のものであつて、本件特約の対象とはならないと解するのが相当である。(浅沼武)